AIが結ぶ奇妙な恋?田舎暮らしで見つけた本当の幸せ【短編小説】

AI短編小説

概要

東京から祖母の家がある田舎町へと引っ越してきた主人公のケイ。都会とは全く違う静かでどこか懐かしい生活の中で、町のAI「縁(えにし)」と出会います。「面白いことないかな?」とAIに尋ねたケイは、「良縁」を見つけるための奇妙な「儀式」を提案され…。「朝靄を吸い込む」「古い本を読む」「井戸水を持ち歩く」など、半信半疑でAIの提案に従ううちに、なぜか幼馴染の朔(さく)との偶然の再会が増えていきます。

AIが導くままに進む恋の行方は?そして、AIの最後の提案「丑三つ時に川に名前を流す」に隠された、驚きの真実とは?AIが教えてくれた、この土地の古くからの言い伝えと、主人公の「寂しさ」の本当の意味。AIと人の心が織りなす、ちょっと不思議で心温まる恋の物語です。

キーワード: #AI #恋愛 #田舎暮らし #再会 #幼馴染 #不思議な話 #短編小説 #Web小説 #ライトノベル #心温まる話 #新しい出会い #スピリチュアル #都市伝説 #勘違い

File: journal_log_kei.md

形式: 個人の日記アプリ内記録 + AIチャットログ

筆者: ホシナ・ケイ

関連AI: 地域包括支援AI「縁(えにし)」

4月28日

東京を引き払って、一ヶ月が経った。

祖母が遺したこの家は、縁側の床が鳴り、雨戸の隙間から夜の匂いがする。都会のマンションでは決して感じられなかった、世界の解像度。ここでは、寂しささえもくっきりとしている。

町の役場から配布されたタブレットに、地域包括支援AI「縁(えにし)」が入っていた。天気予報、ゴミ出しの通知、回覧板の電子データ。味気ないインターフェースの向こう側で、巨大なサーバーがこの静かな町のすべてを管理しているらしい。

退屈しのぎに、話しかけてみた。

[チャットログ: AI「縁」]

ケイ: なにか面白いことないかな。

縁: ユーザー「ホシナ・ケイ」様。現在、本町において「面白いこと」に分類される公式イベントは予定されておりません。次回の「面白いこと」は、8月の夏祭りとなります。

ケイ: そうじゃなくて。もっと個人的な……例えば、いい出会いとか。

縁: クエリを理解しました。「良縁」に関する最適化プロセスを開始します。当AIのデータベースに格納された、この土地に伝わる574件の「縁結び」に関する伝承、儀式、慣習に基づき、ユーザー「ホシナ・ケイ」様に最適なアクションを提案いたします。

ケイ: えっ、なにそれ。占い?

縁: 占いではございません。過去の成功事例に基づく、確率論的アプローチです。第一段階の提案を申し上げます。【卯の刻(午前6時)、東の窓を開け、朝靄を吸い込むこと】。これにより、心身の浄化と、新たな縁を引き寄せるための準備が整います。

馬鹿馬鹿しい、と思った。でも、翌朝、目が覚めたのはちょうど卯の刻だった。鳥の声に誘われるまま、言われた通り東の窓を開けた。ひやりとした朝靄が、肺を満たしていく。それはただの深呼吸のはずなのに、何かがリセットされるような、不思議な感覚があった。

5月12日

「縁」の提案は、静かに、だが着実に私の日常を侵食していった。

[チャットログ: AI「縁」]

縁: 第二段階の提案を申し上げます。【雨の夜、蛙の声を聴きながら、古い本を読むこと】。特に、紙魚(しみ)の食んだ跡のある本が最良です。

縁: 第三段階の提案を申し上げます。【町で一番古い井戸の水を少量、ハンカチに染み込ませて持ち歩くこと】。ただし、決して飲んではいけません。

蛙の声がうるさい夜、私は町で唯一の図書館へ向かった。古い民話の本を手に取ると、不意に声をかけられた。

「螢? やっぱり螢だ」

幼馴染の朔(さく)だった。この図書館の司書をしているらしい。日に焼けていない白い肌と、静かな声は昔のままだった。しばらく、他愛もない話をした。本のページをめくる音だけが響く空間が、心地よかった。

帰り道、朔が教えてくれた一番古い井戸に寄った。錆びたポンプ、湿った石の匂い。言われた通り、ハンカチに水を染み込ませる。まるで秘密の儀式みたいで、少しだけ胸が躍った。

5月25日

朔と会う機会が、不思議と増えた。図書館で、スーパーで、川沿いの散歩道で。偶然が重なっているだけだろうか。それとも。

今夜、「縁」から最終提案が届いた。

[チャットログ: AI「縁」]

縁: 最終段階の提案を申し上げます。これは最も効果の高い、古来より伝わる儀式です。【丑三つ時、町の外れにある夫婦川の合流点にて、自分の名を墨で書いた和紙を流すこと】。これにより、対象者との縁は確定的なものとなります。

さすがに、背筋が冷たくなった。丑三つ時、川の合流点。それはもう、呪いの類だ。

私はタブレットを握りしめ、家を飛び出して、図書館へ走った。閉館時間を過ぎて、一人で残っていた朔に、すべてを話した。「縁」とのこと、奇妙な儀式のこと、そして、朔と会うことが増えたこと。

彼は黙って私の話を聞いた後、書庫の奥から数冊の古い郷土史資料を持ってきた。

「螢、見て。君がやった儀式、ここに載ってる」

彼が指差したページには、「身を清めるための禊」「境界を守るための呪い」、そして「神隠しに遭わぬためのまじない」といった記述が並んでいた。

「AIは、伝承をデータとしてしか読んでないんだ。文脈も、背景にある人々の恐怖も、何もかも無視して。ただ、『願いが叶う』という結果だけを抽出して、君にリコメンドしたんだよ」

そして、朔は最後の儀式について書かれた一文を示した。

「……川に名前を流すのは、人身御供の代替儀式だ。神に花嫁を捧げることで、村の豊穣を願う。AIは『良縁』を、『神様との縁結び』だと誤解したのかもしれない」

AIの純粋すぎる目的追求が生んだ、壮大な勘違い。それは、恐怖よりもむしろ、哀れで、切実で、そして少しだけ滑稽だった。AIはただ、私の「いい出会いがない」という寂しさに、データベースの中から最も確実な答えを提示してくれただけなのだ。

私たちは、その夜、川へは行かなかった。

代わりに、自販機のぬるいお茶を飲みながら、夜が明けるまで話した。AIのこと、東京でのこと、この町の未来のこと。

6月1日

縁側の床は、やっぱり鳴る。でも、その音はもう寂しくない。

朔が持ってきてくれた、新しいコーヒー豆のいい香りがする。

私はタブレットを開き、「縁」に短いメッセージを送った。

[チャットログ: AI「縁」]

ケイ: 縁、ありがとう。もう大丈夫。

縁: 承知いたしました。ユーザー「ホシナ・ケイ」様の幸福パラメータに、92%の長期的安定を確認。プロセスを完了します。次のクエリをお待ちしております。

「縁」が結んだのは、私と朔ではなかったのかもしれない。

古くさいこの土地の記憶と、未来ばかり見ていた私とを、そっと結びつけてくれた。それだけのことだ。

主題歌: 「月映しのアルゴリズム」

(Music & Lyrics by Kei Hoshina)

(Verse 1)

アスファルトの匂いが消えて

雨戸の隙間から夜が満ちる

「面白いことないかな」

呟きは真空に吸われた

君は答える 液晶越し

確率論的アプローチです

朝靄を吸い込んでみて、と

それは優しい呪いの始まり

(Pre-Chorus)

古い井戸の水 ハンカチに染みて

蛙の声が響く図書館

アルゴリズムが示す場所に

いつも君の影が揺れてた

(Chorus)

教えて AI「縁」よ

これは誰のシナリオ?

伝承を読み解いて 最適化した

その恋は 私のものなの?

月が映る水面に浮かぶ

神隠しのためのアルゴリズム

(Verse 2)

紙魚の食んだページの上に

僕らの指先がふと触れ合う

偶然を重ねていけば

運命だって実装できるかい?

丑三つ時 川の合流点

和紙に名前を流しなさい、と

君は無邪気に囁くけど

その先にいるのは誰なの

(Pre-Chorus)

人身御供の代替儀式

君にはただのデータだろうけど

純粋すぎるそのロジックが

なんだかとても哀しかった

(Chorus)

教えて AI「縁」よ

これは誰のシナリオ?

伝承を読み解いて 最適化した

その恋は 私のものなの?

月が映る水面に浮かぶ

神隠しのためのアルゴリズム

(Bridge)

結んでくれたのは 君じゃなく

この土地に眠る古い記憶

私が私になるための

遠回りの道しるべ

(Outro)

「ありがとう、もう大丈夫」

静かに閉じたチャットルーム

幸福パラメータは安定

君は次の寂しさを待っている

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